この噂の出所はどうやら経済評論家の三橋貴明氏です。
彼はサムスンに畏縮する日本人を元気づけようと、「サムスン電子の株主は54%が外国人である」「国民を犠牲にしても、グローバル市場におけるシェアを拡大し、配当金を外国人に支払う。 」とサムスンを批判しましたが、これを無知なネトウヨが都合のいいように拡大解釈し、「サムスンはいくら儲けてもその多くを外国資本に搾取されている」などというデマが飛び交うようになりました。
このデマの問題点は54%という数字だけが独り歩きして、配当性向という概念が一切無視されていることです。
配当性向とは、『会社が税引後の利益である当期純利益のうち、どれだけを配当金の支払いに向けたかを示す指標』です。
すなわち、『当期純利益×配当性向×外国人持ち株率』が外国資本に搾取された実際の金額だという事です。これらを比較するために以下の表を用意しました。なお、パナソニックとシャープは赤字(本来であれば配当が出ない)のため比較の対象から外しています。またサムスンの売上・純利益を計算した為替レートは1ドル=103円です。各数値のソースはEDINETとサムスンのアニュアルレポートです。

売上高純利益配当性向外国人持ち株率外国による搾取
サムスン電子19.7兆円2兆7000億円5.2%54.0%758.2億円
日立製作所9.0兆円3471億円81.5%41.6%1176.5億円
東芝5.8兆円775億円86.4%24.9%166.4億円
ソニー6.8兆円430億円65.2%32.7%91.7億円
(2012年及び2012年度)
これを見て「やっぱりサムスンは東芝やソニーより外国人に搾取されている!ざまあwww」と言い張るなら、もう私が言う事は何もありません。
『100万円の利益を上げてその見返りとして20万円搾取された人』が、『1000万円の利益を上げてその見返りとして30万円搾取された人』を見て、「俺は20万、お前は30万。お前の方が搾取されている。ざまあ。」と喜んでいるわけですからね。気の毒です。

それではなぜサムスンはこのような低い配当性向を株主から許されているのでしょうか。
一つはやはり純利益の額の大きさでしょう。例えばソニーと比較すると、サムスンの純利益は63倍もあるわけですから、配当性向が例え1/10でも、ソニーの6.3倍の配当金が手に入ります。
もう一つはサムスンに期待されているポテンシャルの高さです。株主は配当を得る以外に、株を転売することで利益を得られます。これから株価が上がり続けると予想される企業は「俺たちへの配当はいいからもっと投資して成長してくれ」となりますし、日本の電機メーカーのように出涸らしの企業は「どうせもう成長はできないのだから配当をもっと出せ」となるわけです。
今年の初夏だったでしょうか。サムスンの株価が急落しているとネトウヨが大はしゃぎしていましたけど、もう何年も順調すぎるペースで伸びていた株価が少しだけ下落しただけの話でした。
一方、日本の電機メーカーの株価はと言うと、最近ではアベノミクスの恩恵こそあれ、長期的に見れば完全にじり貧です。これでは株主の評価も得られませんね。

以上のことから、「サムスンは外国資本に搾取されている」というのは、外国人持ち株だけに着目した印象操作に過ぎないという事が証明されました。
韓国憎し、サムスン憎しは個人の自由ですけど、事実に基づく批判を心がけたいものですね。


■追記2014/01/29mittytahさんから『日本の電機メーカーと比較している時点で、三橋氏の言っていることの真理を理解していない。 韓国のGDPで高い割合を占めるサムソン電子なのに外国に搾取されているのが問題だと言っている。』と指摘を頂きました。
この方は配当性向という概念が理解できていないのでしょうか?サムスンの「実質的な外国による搾取率」が「配当性向の低さ」によって極めて低く抑えられていることは説明しました。それにも関わらず、「外国に搾取されているのが問題だ」と言っている意味が分かりません。
これは私の推測ですが、「日本の電機メーカーは確かにサムスンより外国に搾取されているかもしれないが、サムスンのようにGDPの大部分を占める経済規模ではないから問題ない。一方、サムスンはGDPの大部分を占めているから外資が参入している時点で問題だ。」と言いたいのでしょうか。
つまり「経済全体で見れば、韓国は外資に搾取されているが、日本はされていない」ということでしょうか。
だとすると、とんでもない思い込みです。こちらの質問と回答をご覧ください。http://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q11118694866上場企業全体で見ても、日本企業の方が外資に搾取されています。
そしてこれは必ずしも日本にとって悲観的なことではありません。配当性向が高いことはともかく、外国人株主比率が高いことは、グローバルなマーケットとして世界から信頼されているという事なのです。
これを「外国の侵略だ!立ち上がれニッポンジン(笑)」と扇動している右翼もどきのエセ経済学者が三橋某ですよね。

■追記2014/05/09pick_minminさんよりいくつか指摘を頂きました。
まず、「搾取」という言葉についてですが、経営学を学んだ者の端くれとしてこの言葉が適切でないことは心得ております。問題提起の性質上、便宜的に使用しているだけですので、私自身が、外国資本への配当を「搾取」を認識しているものではありません。紛らわしい表現を使用してご迷惑をおかけしました。
次にご指摘の成長企業と成熟企業・衰退企業の違いについては、本文中で既に触れています。
最後に、中央日報の当該記事についてはよく存じ上げませんが、私がこの知恵ノートを作るきっかけとなったのは、複数の嫌韓・ネトウヨユーザーが「サムスンの外国人株主比率は54%で配当はほとんど外国に搾取されている」と主張していたことに疑問を感じたためであります。そして私が調べた限り、その扇動を最初に行ったのは三橋貴明氏であるようでした。
■追記2014/07/22ff01chronicleさんより「今好調なサムスンの配当性向が極端に低くなっているだけで、増配の圧力が増えることを考えれば、外国人持ち株率が高いほうがやはり"搾取"されやすい体質だと思う」とご指摘を頂きました。
以前、ご指摘を下さったpick_minminさんと言い、わざわざこのアドバイスのために新規IDを作って下さっているようで光栄です。
確かに10年先、20年先のことを考えるとそういう可能性も否定できないと思いますが、サムスンの過去10年における配当性向を見ると、14.5-10.9-10.4-15.8-14.6-12.3-9.5-6.2-5.2-7.2と推移しており、提示して下さったソニーの配当性向推移(42.4-72.4-20.9-6.2-赤-赤-赤-赤-65.2-赤)とは今のところ住んでいる世界が違うことは一目瞭然です。希望的観測でサムスンの10年後を心配している暇があれば、赤字が止まらないソニーの心配でもした方がいいでしょう。
また、配当性向をソニー並みに上げなければいけない程サムスンが追い詰められれば、外国人株主が離れていく可能性も十分にあります。むしろ"搾取"されているうちが華なのではないでしょうかね。
サムスンにとって最悪の"搾取"パターンは、数十年後、中国あたりの新興電機メーカーの奴隷企業となり、現在のルノー・日産自動車のような関係に置かれることでしょう。サムスンは日産自動車を反面教師に頑張って欲しいものですね。
■追記2015/03/21mo40ksさんから、サムスンは借金まみれだという指摘を頂いておりましたが、他のQ&Aにて意見を交わした結果、ご理解を頂けたようで何よりです。確かにサムスンの負債額は大したものですが、自己資本比率を見れば借金まみれどころか優良な財務状況であると言えるはずです。
それから、mo40ksさんの指摘とは関係ないのですが、参照している財務データがやや古くなっている(2012年度ないし2013年のデータです)ので、この知恵ノートをご覧になられた方は、その点にご注意下さい。本当はすぐにでも新しいデータに書き換えるべきなのでしょうが、ゆっくり知恵ノートを編集する時間がなかなか取れず申し訳ありません。いずれ最新の情報に訂正・追記させて頂きます。
■追記2015/04/10j1azm91fさんから、「韓国のGDPと外国人への配当金額の比率が諸外国と比較してどうか」とご質問がありましたが、残念ながらそのご質問にはお答えできません。と言いますのが、その国のすべての企業の配当金額を正確に把握することが事実上不可能だからなのです。仮に日本だけで考えても日経225を対象とするのか、東証一部を対象とするのか、東証全てを対象とするのか、地方証券取引所も含めるのか…と言った問題が発生しますし、同様の問題は諸外国でも発生します。申し訳ありませんが私の技量ではこの切り口で納得の頂けるご説明は出来そうにありません。